73 水無月・京都御苑

 水無月・京都御苑

   本日は6月30日。ちょうど一年の半分に当たるので、「水無月祓」あるいは「夏越の祓」とよばれる神事が各地の神社で行なわれる日です。穢れを祓い清め、無病息災を祈願しながら大きな茅の輪をくぐり、身に付いた穢れを移した人形を水に流したりします。

 水無月をタイトルとした以上、今日仕上げねばまずいと、はっと気づいたので、何とか今日中にUPすることにします。 

  オンライン参加している研究会の発表担当だったので、6月17.18日と京都でした。4時間という長丁場の研究会の中休みには、なんと和菓子が出るのです。東京の研究会でもお菓子の差し入れがあることはありますが、旅の土産ならばいい方、ふつうはコンビニレベルのお菓子が普通です。和菓子は、「水無月」、 包みをみると、 高級和菓子店ではなく、普通の和菓子屋の包みですが、とてもおいしい。普通の水無月(白)と抹茶の水無月(緑)、黒糖の水無月(黒)と三種類あります。京都では「水無月祓」の日に必ず食べるので、水無月祓の日にしか売っていないのが普通だったけれど、この頃は六月中出ている、そんなのは邪道だという話を聞きながら頂きます。うーん、東京の和菓子屋さんの「水無月」は六月中ずっとあるような気がします。さすが京都は奥が深いですね。


 発表が終わった翌朝、特に予定もないので、花でもみようか、と思い立ちました。六月の花といえば紫陽花、有名なお寺はたくさんありますが、あまりに目につきすぎて珍しくないですし(花は大好きですが、それほどでもないのが紫陽花と、カーネーションと菊)。もっと場所を占めない、ひっそりした白い花がいい、丁度夏椿が見頃のようです。夏椿は、「そうだ、京都ゆこう」でPRしている、妙心寺の塔頭、東林院が有名で、今の時期、限定公開されているようですが、拝観料1600円(抹茶付)とあります。私的には少々高いです。御苑で見れば無料です(発表会場の大学に近いので、5月と同じ宿にしました。京都御苑の蛤御門の前にありますので、京都御苑は目の前です)。

  蛤御門の一つ先にある中立売御門の前の休憩所にある夏椿、木はちょっと小さめです。日本では沙羅双樹の花とされてきた夏椿、インドの沙羅双樹は、もっとばさばさした白い花らしく、全く異なっているようですが、小さいけれど、清楚な美しい花です。


 もう一つ染殿井の近くの夏椿を探します。迎賓館の裏手の塀に沿って、染殿井があります。5月に見た梨木神社の染井とも近いので、このあたり一体が、染殿后と呼ばれた明子の里邸「染殿第」があったところなのでしょう。染殿后といえば、文徳天皇の女御で、清和天皇の母、父は太政大臣藤原良房、業平のお相手とされる二帖后高子とは従姉妹同士ですが、高子のお姑さんにあたります(ややこしいですね)。大変な美女だったので、『今昔物語集』巻20-7には、病の祈祷に呼ばれた僧侶が后に魅了され、鬼となってもその思いを止めることができないという話のなかに登場します。

 こちらの夏椿は、迎賓館の裏側の塀沿いにある染殿井の左手、人気のないところでひっそりと咲いていました。中央が染殿井。後ろは京都迎賓館の塀。立て札は、風雨にさらされて、ほとんど読めません。


 

  

 染殿井を探していると、一本の大きな木の周りにロープがはりめぐらされていて、立ち入り禁止になっています。何人かの人が、望遠レンズをつけたカメラを構えています。何か特別な霊木?いや、ただの大きな松です。よく見ると、ロープに札が下がっています。  


 アオバズク、なのでした。一人の方が指さして、いる場所を教えてくれました。たしかに、高いところに止まっている小さな黒い影がみえます。青葉の頃にやってくるフクロウの仲間の渡り鳥だからアオバズク、御苑の決まった木で卵を産み、子育てをするのだとか。松の木には、巣箱が取り付けられていて、雌は巣箱の中で卵を温めているようです。ですから、見えるのは、雌と卵に天敵が襲って来ないようにじっと見張っている雄なのです。確かに全く動かない。雛が孵ると、一生懸命餌を探して届けるのだとか。偉い!イクメンアオバズク、いやイクチョウアオバズク。

← このちょっと上にいる黒いの。

 私のスマホの写真では、ただの黒い影にすぎませんが、望遠レンズで撮った方の写真を見せていただくと、たしかにアオバズク、白い羽は美しいブルーに輝いて見えます。

 少し先にゆくと、「森の文庫」という図鑑や紙芝居などをおいた書庫スペースがあり、アオバズクの写真もありました。 



 ある方のホームページには、アオバズクは葵祭の頃にやってきて、祇園祭りの頃に子育てをして、時代祭りの頃に去って行くのだとか。京都の行事と重ね合わせた名言ですね。宗像神社にもアオバズクがいるけれど、そちらは、後ろを向きで、正面からみようとしても、塀が邪魔して場所を確保できない、こちらは正面を向いていてくれるからいい、と話す女性もいます。御苑のアオバズクには、コアなファンが何人もいるのですね。





 さて次は、萼紫陽花に似た、ちょっと渋い甘茶の花を見に行くことにします。建仁寺の塔頭霊源院です。 

   小さなお寺ですが、綺麗に手入れされた枯山水があって、甘茶の花がたくさん咲いています。赤みがかったもの、青みがかったものなどさまざまで、400株もあるのだとか。下の上側中央にある茶色の石は、インドから送らせたもので、一割くらいしか顔を出していないのだ、とか。京都の枯山水の石は、もしかしたら、そんなふうに隠れた部分も多いのかもしれません。



 甘茶の花。甘茶はアジサイ科なので、紫陽花の仲間のようですが、地味なお花だから、よいとします。お釈迦の誕生日、灌仏会にお釈迦様の像に注ぎ、お参りする人にも振る舞われる甘茶、四国のお寺で、ちょうどその日にあたり、ふるまって頂いたことがあります。甘露でした。
 こちらの住職さんに尋ねてみると、若葉を摘んで、普通のお茶と同じように作る、味の違いは、普通のお茶と比べてもあまりわからない、というお話でした。気になってネット検索すると、健康食品、自然食品で、甘茶が売られていて、やはり甘みがあるようです。今度、購入してみようと思っています。

 あとで、建仁寺の両足院には半夏生が見事に咲いていると知りました。近くまで行ったのに、残念。またいつか、機会がありましたら、6月のひっそりした花を訪ねることにしましょう。

 その日は琵琶湖泊。部屋の窓から夕暮れの伊吹山が美しく見えました。 




           

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コメント

木の葉 さんのコメント…
京都の花漫遊の旅、古代にタイムスリップしたような優雅さを感じます。夏椿は以前職場の中庭に咲いていました。誰も目をとめず、愛でる人は皆無。シルク人ぞ知る、夏を象徴する花です。甘茶の花は初めて知りました。紫陽花科とは。京都のお寺はそれぞれ売りがありますね。京都花紀行を拝読し、ゆったりした気分に浸ることができました。
M.Nakano さんの投稿…
 木の葉さん、コメントありがとうございました。

 なんか地味ですけれど、この記事を書きたくて、仕上げていなかった葵祭の話を慌ててUPしたのでした。ここのところ京都御苑ばかりですけれど、それはそれで楽しいです。京都御苑は地味ですけれど、その月に見られる花などの場所を教えてくれる掲示もあって、便利なのです。ほとんど無駄なお金がかからないところもよいです。広くて疲れますけれどね。
いさな さんのコメント…
殆ど読めない立札に、ひえー!ものの物語、涼やかな夏椿に、淋しいあじさいと思い込んでいた甘茶?
とても面白く読ませていただきました。

芙蓉のような帽子を被ったMasakoさんの笑顔がいいですね。

何よりお元気そうで嬉しいです。
M.Nakano さんの投稿…
いさなさん、お久しぶりです。線状降水帯は大丈夫でしたかしら。都会ですから心配ないとは思いますが。この京都行きは、面倒な研究発表があって、その翌日、ほっとした時の小さな散歩の記録です。ブログ、なかなか更新できずにおりますが、読んでくださって、書き込みをしてくださってとても嬉しかったです。有り難うございました。

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