98 ウンベルト・エーコ 『小説の森散策』とオンライン講義
ウンベルト・エーコ 『小説の森散策』とオンライン講義
イタリアの作家、記号学者であるウンベルト・エーコ『小説の森散策』(原題:"Six Walks in the Fictional Woods")は、ハーバード大学で行われた通称「ノートン・レクチャーズ(ノートン詩学講義)」として行われた六回にわたる連続講義の記録です。この通称「ノートン・レクチャーズ」は、1926年に始まり、T・Sエリオット、ストラヴィンスキー、ボルヘスといった詩人、小説家、音楽家、批評家などさまざまな領域で活躍する錚々たる人物が招かれてきた由緒ある講義で、1992年、エーコもそこに名を連ねることになったのです。その講義の記録の邦訳は、1996年に岩波書店から刊行され、『エーコの文学講義』と題されましたが、2013年、岩波文庫に収録されるにあたって、本来の題である「Six Walks in the Fictional Woods」を生かして『小説の森散策』というタイトルがつけられました。内容は、小説の読み方や構造の分析を行う六編の知的なエッセイ、難解な理論書ではなく、具体的な文学作品の例を交えながら、独特のユーモアで、分かりやすく語られているフィクション論なのですが、深く心を打たれたのは第六編「虚構の議定書」の最後の一節です。
そこには、ラ・コルーニャ科学技術博物館から招待を受けたエーコが、見学を終えた後、館長にプラネタリウムに案内されたことが書かれています。プラネタリウムはいつだって魅惑的な場所、星空のもと砂漠に座っているような感じがする、けれどその晩の私にはそれ以上のことが待っていた、とあります。続きを引用しますと、
美しい子守歌が流れてきたあと、頭上で空が回り始め、それは私が生まれてきた夜、イタリア、アレッサンドリアの1932年1月5日から6日の夜空でした。超現実的としかいいようもなくはっきりと、わたしはわたしの人生の最初の夜を体験したのです。
(プラネタリウムの写真はないので、これはイメージ画像。
父が撮影したオーロラと星。)
なんと、プラネタリウムは、彼の生まれた日の夜空を投影したのです。彼は「私は、この地球上で唯一、みずからの起源にもどるという特権を享受した人間なのかもしれない」と感じ、「自分の生涯でこれまで読んだなかで最高にうつくしい物語を生きてしまった」、「あまりの幸せに、できるものなら、いまこの瞬間に死んでもいい、いまほどふさわしい瞬間はない、そんな感じ(欲望)を抱いた。」といいます。
人はさまざまな人生を歩みながら、どこかで始原に戻りたいという願望を持っているのかもしれません。プラネタリウムに投影された、生まれた日の夜空は、彼の心の最も奥深いところにある言葉を導きだしてくれたのであり、それは私たちへの心揺さぶるメッセージとして残されました。
このお話を、4年前のオンライン講義で引用しました。コロナウィルス流行のため、学生も教師も大学に行くことが出来なかったときに行ったもの、ちょうとその大学の講座の最終日は、定年退職、しかも何故か私のお誕生日と重なっていました。最後の画面で、迷ったのですがそのことを話して終わりにしました。海外から聴講してくれた学生もいて、ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』が大好きで、日本から持って来ていますが、最後にエーコの話が出るとは思いませんでした、絶対、来年も聴こうと思っていたのに、退職は聞き間違いであって欲しい、という感想を書いてくれました。最後にそんな言葉をくれる学生さんがいたことが、私にとっては嬉しく、大切な思い出となりました。
しばらく玉川の講座もお休みなので、その代わりといっては何ですが、一ヶ月だけ、その時のオンライン講義を公開します(固有名詞など、そのままで直していませんので期間限定とします)。YouTubeのリンクはこちらです。
https://youtu.be/HFt3axhRxVw
なんと、プラネタリウムは、彼の生まれた日の夜空を投影したのです。彼は「私は、この地球上で唯一、みずからの起源にもどるという特権を享受した人間なのかもしれない」と感じ、「自分の生涯でこれまで読んだなかで最高にうつくしい物語を生きてしまった」、「あまりの幸せに、できるものなら、いまこの瞬間に死んでもいい、いまほどふさわしい瞬間はない、そんな感じ(欲望)を抱いた。」といいます。
人はさまざまな人生を歩みながら、どこかで始原に戻りたいという願望を持っているのかもしれません。プラネタリウムに投影された、生まれた日の夜空は、彼の心の最も奥深いところにある言葉を導きだしてくれたのであり、それは私たちへの心揺さぶるメッセージとして残されました。
このお話を、4年前のオンライン講義で引用しました。コロナウィルス流行のため、学生も教師も大学に行くことが出来なかったときに行ったもの、ちょうとその大学の講座の最終日は、定年退職、しかも何故か私のお誕生日と重なっていました。最後の画面で、迷ったのですがそのことを話して終わりにしました。海外から聴講してくれた学生もいて、ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』が大好きで、日本から持って来ていますが、最後にエーコの話が出るとは思いませんでした、絶対、来年も聴こうと思っていたのに、退職は聞き間違いであって欲しい、という感想を書いてくれました。最後にそんな言葉をくれる学生さんがいたことが、私にとっては嬉しく、大切な思い出となりました。
しばらく玉川の講座もお休みなので、その代わりといっては何ですが、一ヶ月だけ、その時のオンライン講義を公開します(固有名詞など、そのままで直していませんので期間限定とします)。YouTubeのリンクはこちらです。
https://youtu.be/HFt3axhRxVw
パワーポイントで美しく打ったというよりは、資料を貼り付けたもので、読みにくいかもしれません。PDFの資料が欲しいという方は、こちらのリンクをクリックして下さい。固有名詞などを消したPDFファイルが開きます。印刷することも可能です。
https://drive.google.com/file/d/1XeCex1PriNy2iP_iwpIE8TS_msjPXg6G/view?usp=drive_link
グーグルドライブへのアクセスが必要かもしれませんので、うまくゆかない方はコメント欄あるいはその他の方法でご連絡下さい。
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