51 二つの図録(「芸術×力 ボストン美術館展」)と2006年ボストンの旅のこと

二つの図録(「芸術×力 ボストン美術館展」)と2006年ボストンの旅のこと

2022/8/16

 ついでがあったので都美術館の「芸術×力 ボストン美術館展」に行ってきました。予約制ですが、前日9時までにネット予約すればチケットを取ることができます。どの日も空いています。シニア割引1400円。
   「ブリューゲル展」でもそうでしたが、「バベルの塔」という目玉が一つか二つあって、他はそれほどでもないというのが都美術館の印象なのですが、今回は逸品が揃っていました。途中で、展示品一覧の目録を取り忘れていたことに気づき、再入場不可とありましたが、出口手前で、ベルトパーテーションのベルトが一カ所だけ空いていて、入り口に戻ることができたので、もう一度見てしまいました。

 最初に、巨大な戴冠式のナポレオン像、ナポレオンが着ているローブの巨大な質感が見事、続いてヴァン・ダイクの「メアリー王女」(1637年頃).
 写真撮影禁止なので、作品を載せることはできませんが、一つだけ買ったミュージアムグッズ(めがね拭き)の写真を。


 マージョリー・メリウェザー・ポストのブローチです。プラチナ、ダイヤモンド、エメラルドでできていて、イギリス女王に拝謁するために購入したのだとか。一番大きなエメラルドにはアイリス(?)が彫られています。宝石にこんな細工ができるのはインドだけなのだそうで、一度インドに渡り、アメリカの大富豪(父がコーンフレーク会社を起業)の女性の手に入ったものだということです。

   宝石についてはもう一つ、メアリー・トッド・リンカーンのイヤリングとブローチがありました。奴隷解放宣言、南北戦争で知られる、アメリカの第十六代大統領、エイブラハム・リンカーンの妻です。いくつかあって、けっこう贅沢好きだったのだと知りました。

  でも何と言っても今回の目玉は、『平治物語絵巻』(三条殿夜討巻)と、『吉備大臣入唐絵巻』です。特に『吉備大臣入唐絵巻』は、他の美術館への巡回がなくなり、都美術館だけの展示になったので、前期に上巻・後期に下巻展示のはずが、全期間全巻展示となったのだとか。部屋を大きく使ってコの字型に絵巻が展示されているのは大変見応えがあります。普通、絵巻の展示は、前後が巻かれていて一場面のみということが多いですから、それだけでも見る価値があります。入唐した真備を警戒して唐人がいくつかの難題を出す、その問題の一つである『文選』についてさぐりにゆくために、宮中にむけて、真備と赤鬼(阿部仲麻呂ー真備を助けるために現れた)が飛行してゆくところは、展覧会のHPのスタート画面になっています。超能力、カンニング、いかさま碁、その他何でもありのギャグ漫画のようで、読み手を楽しませようとして描く手法は、難しいお話をわかりやすくするためには成功しているといえましょう。

  

            『日本の絵巻 吉備大臣入唐絵巻』
 
 写真より、実物の方が、楼閣の柱の朱の色がくっきりとしていて美しいです。900年前に描かれた色が、こんなに鮮やかに残っていたのだ、と感心、やはり本物はすごいです。
 驚いたのは、ミュージアムグッズコーナーで、図録が二つあったこと。2020年版と2022年版。古い図録には、一つだけ展示替えがあるけれどあとは同じ、今回の新しい展示は小冊子として添えています、とあって、うーん、それなら一つ多く収録されている古い方が200円安いしお得なのでは、などと思って見比べたりしました。ただ新しいものは目玉の絵巻が大きく出ています。古いのはいかにも小さいかなあ。どちらを選ぶかは、やはりお好み次第ですね。
 一瞬、同じ展覧会が前にもあったっけ?と思って、出たところにいた係の人に質問したら、2020年の予定がコロナで中止となったけれど、図録をもう作ってしまっていたというのです。きちんと公式HPを見れば、こうしたいきさつはわかったはずなのですが、行き当たりばったりに出かけたものでm(__)m。 
   
 ボストン美術館展は10年前(2012年3月20日~6月10日開催)に見ました(東京国立博物館140周年 特別展「ボストン美術館 日本美術の至宝」)。この二つの絵巻も展示されていました。長谷川等伯「龍虎図屏風」、尾形光琳「松島図風」、曽我蕭白「雲龍図」・虎渓三笑図屏風」など、今回の都美術館とはまた異なるすばらしい作品が揃っていま
したが、あの時は、これだけのものが日本から流出したことが残念で涙がこぼれました。
  
  東博のボストン美術館展の6年前、つまり2006年(50の北欧旅行記と同じ年の夏)にボストン美術館に行ったことがありました。美術館はたいそう広く、世界のさまざまな美術品があって、日本美術など、ほんの少ししか展示されていないのです。あの時は、数点の印籠と曽我蕭白だったでしょうか。アメリカで最も古い美術館の1つに数えられるボストン美術館の開館時(1876年)の収蔵作品(5600点)は、市民による寄贈によって増え続け、現在では、古代から現代までの45万点以上になったそうですが、展示されていた日本の美術作品はごく僅かでした。ですから、改めて東博の展覧会で、こんなにたくさんあったのかと知った衝撃は言葉では表せないものでした。

 美術館、博物館にすべてが飾られているなどということはないのです。それは日本でも同じですが、向こうは収蔵品の規模が違うような気がします。アメリカだけでなく、ヨーロッパでも行っても同じで、展示されているのは膨大な所蔵品のなかのごく一部です。イタリアのブレラ美術館でしたか、廊下に山のように絵が掛けられているのです。壁ではなく、ホテルのロビーに新聞紙がラックにかけられているような形で無造作に置いてあって、一つ一つを見ることはできないのです。収蔵庫にはもっともっとあるのでしょう。そうした膨大な量の全世界にわたる収蔵品のなかで、アジア芸術や美術というのはほんの一部という扱い、日本美術や芸術というのはさらにその一つに過ぎないのだというショックを受けたことを思い出します(ものすごく期待していったアイルランド・ダブリンのチェスター・ビーティ・ミュージアム〔狩野山雪の『長恨歌絵巻』などがある〕)に至っては、日本作品の展示はゼロに近くて本当にショックでした。

 2006年は、ちょうど長男がボストンにいたので、遊びに行ったのでした。彼は昼は授業があるので、一人で地下鉄の切符を買って、ボストン美術館とハーバード大学と、そこに付属するサックラー美術館を見たのでした(方向音痴の私のことですから、サックラーを探すのは本当に大変で、やっとみつけました)。サックラー美術館にもアジア美術というコーナーがあって、中国やインドの美術品があり、日本はその一部ほんの少しです。イザベラ・ガードナー・ミュージアムに至っては、エレベーター乗り場の天井に『源氏物語』の絵があるという有様。
            サックラー美術館 『源氏物語』夕顔
   
 息子とはナイアガラの滝を見に行きましたが、行きにボストンの空港でフライトキャンセルがあり、彼はどこかに行ってしまいました。ボストン空港はターミナルが5つくらいあるのです。スマホもない時代だったので連絡もとれず。それなのに、なぜか連絡バスで、あるターミナルに行くと、彼がいたのです。新しいチケットに変更するため、カウンターに並んでいました。行く先くらい言ってから行け!と言いたかったですが、彼も夢中だったのだろうと思って黙っていました。神様のお引き合わせというのはこういうことをいうのでしょうか。今考えても、どうして巡り会えたかわからないのです。フライトは大幅に遅れ、夜中に空港に到着、タクシーで、予約してあったナイアガラのマリオットについたのは午前1時くらいでした(ひどい散財でした)。でもこのフライトキャンセルの経験があったので、二週間後の北欧の旅の帰りのフライトキャンセルに対応することができたのです。北欧でのフライトキャンセルの時、夫は呆然として、近くにいる日本人ツアーの添乗員の話を聞いていました。聞いていれば対策がわかると思ったのでしょう。そうじゃなくて、一刻も早くチケット変更カウンターに行くのよ、と叫んで、二人で並んだので、比較的早い代替便をとることができたのでした。
   アメリカに話を戻しますと、帰りに一人でニューヨークに行きましたが、お目当てのメトロポリタン美術館は休館日、ブロードウェーで、「マンマ・ミーア」と「オペラ座の怪人」を見、自由の女神は、観光船ではなくて、小耳にはさんだ、定期船の安いチケット(女神の近くまでいって迂回して帰って来る)を買って、遠くからみて終わりました。 ブロードウェーの近くの民宿(それでもホテルなみに高かった)の朝食は、ドーナツとコーヒー、 おやつではないですから、ドーナツの種類がたくさんあってもあまり嬉しくもなく、せいぜい一つしか食べられません。
  2006年の夏は、東(アメリカ)にゆき、時差ぼけが直らぬうちに西(北欧)に旅立つという、二ヶ月の間に二つの海外の旅をした、たった一度だけの経験でした。
 長男との二人旅というのは初めてのことでしたが、これも再びあるかどうかはわかりません。

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コメント

御輿 さんの投稿…
いつもワクワクするようなご旅行の様子、そして美術展情報をありがとうございます。
お蔭様で、私もいつも自分の記憶をリフレッシュさせていただいております。
今回は「吉備大臣入唐絵巻」、これを見たのは、まだ一般にそんなに知られていない頃、ある偶然からでした。
平成22(2010)年、今年と同じ寅年です。その頃、ある大学系の生涯学習で「百人一首」を学び始めて丁度十年になり、講座のお仲間を誘って、8人で十周年記念奈良日帰りの旅をしました。折しも平城京遷都1300年、平常宮跡に大極殿と遣唐使船が再建され、奈良博では「大遣唐使展」が開かれているという6月でした。その時に、奈良博の展示の目玉の一つが「吉備大臣入唐絵巻」で、ボストンからの里帰りと書かれていました。今ほど知識もなかったのですが、一見してとてつもなくインパクトのある絵画で、面白くて引き込まれたのを覚えております。
朝6時台の新幹線で出発し、午前中に平城宮を見学し、奈良ロイヤルホテルでランチをしてから午後は奈良博展観、京都までの帰路玉水で途中下車して井出の玉川まで散策(山吹は一輪しか残っていませんでしたが笑)、玉水ルートは同じ年の3月に中野先生から教えていただいていたものです。一日をフルに使えて、充実感一杯の若き日笑の一日でした。
M.Nakano さんの投稿…
御輿さん

 詳細なコメントをありがとうございます。日程まできちんと書かれるのはさすがですね。

 御輿さんは毎年正倉院展にゆかれますし、奈良博がお詳しいので、2010年に奈良博で『吉備大臣入唐絵巻』をご覧になったのですね。東博では2012年でしたから、『絵巻』は巡回だったのか、一度ボストンに戻ったのかは不明ですが。

 充実した旅の引率をなさってたようで、何よりでございました。
 おっしゃるとおり、同じ2010年3月29日から、山下先生をゲストにお迎えして、皆様とみかの原を訪ねる旅をご一緒したのでした。黒一点のS氏が教えてくださった国宝の仏像がある蟹満寺などにもまわり、皆様のおかげで充実した思い出がたくさんあるよい旅であったことを思い出しました。ありがとうございました。

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