88 モンゴル短期滞在記(1)増補版
モンゴル短期滞在記(1) (少し増補しました)
夫が夏はモンゴルに行きたいといいだしました。うーん、モンゴルねえ、昔は、井上靖の『蒼き狼』とか、竹宮恵子の『天馬の血族』(漫画です。ごめんなさい)なんかを読んで憧れたこともあるのですが、たしか『知的生産の技術』で知られる、日本における文化人類学のパイオニアであり、ユニークな比較文明論を展開し、各方面に多くの影響を与えている梅棹忠夫が65歳の時、モンゴル滞在中、一晩で原因不明の失明をしたという話を聞いて以来、怖ろしい菌がいるところではないか、と怯えていました(梅棹忠夫はそれ以後口述筆記により、30冊の本を出したそうです。その時のことは闘病記『夜はまだあけぬか』に詳しく書かれています)。
虫も多いというので、薬局で虫除けと虫刺されの薬を買い、肉が主食というので、どちらかというと肉が苦手の野菜派の私は、アマゾンで旅行用の日本食を買い、夜は冷えるというのでユニクロのヒートテックやら厚手のジャンパー等準備万端、荷物の少ない私にしては、ずいぶん重いスーツケースを抱えることになりました。これもちょっと怖いと思っていた自己防衛のためでした。
飛行機は1時間遅れ、15時30分頃出発、時差もあって19時30分頃到着。入国カードのトラブルもなく、荷物をもって出てみると、空港に迎えがいない。これって1月のコタキナバルと同じパターンでは?あちらはロコタビに頼んだ個人の迎えだったけれど、今度は大手の旅行会社、そんなはずはないと何度見ても、迎えのカードに私達の名前がありません。電話も使えないので困っていると、他の旅行会社(HIS)のガイドさん、他のツアーで日本人を迎えに来ていた人が、緊急連絡先に電話してくれました。ちょっとした手違いだったらしく、こちらは26日出発を希望していたけれど、あいていないといわれ、25日からの旅行でOKとしたのでしたが、現地では26日からと理解していたということだったようです。日曜日だったので、家庭サービスをしていたCさん、奥さんとお嬢さんを置いて、タクシーで帰れといって、50分かかる空港までの道を雨のなか(ウランバートルでは珍しいらしい)、車をすっ飛ばして40分で到着しました。中学から大学まで日本にいたというCさん、殆どネイティブといえるくらい日本語は達者(両親は日本の大学の先生を10年間していたとか)、昨年はやったモンゴルを舞台にした堺雅人主演のテレビドラマ「VIVANT」から「都知事選」の結果まで、日本のことをよく知っています。ロシアと中国という二つの大国に挟まれて身動きができないのがモンゴルで、今でも両方の国に対する依存度は高いといいます。ウランバートルからはロシアのサンクトペテルブルグに行く列車と中国に行く列車が出ていて、ロシアからは石油が運ばれ、中国からは野菜や衣類が運ばれ、モンゴルからは肉類を乗せるのだとか。ウランバートル唯一の火力発電所はロシアが作ったもの、最後の日に行くはずだった、ウランバートルのザイサン丘という名所には登れなかったのは、秋にプーチン大統領が来るから、その準備をしていうというような、考えてもみなかった話をたくさん聞きました。そう、ウクライナとの戦争のため、多くの国と国交が断絶されているロシアとの国交が開かれている数少ない国がモンゴルなのです。
翌日の朝は別のガイドさんが迎えにきました。ガイドのTさんもモンゴルの高校を出たら日本の新潟に来て日本語を勉強した、と。彼の両親は15年の間アメリカにいたので、おばあちゃんに育てられたとか。運転手さんは60歳(モンゴルでは高齢な方)、二人の娘はオーストラリア在住で戻ってこないという話でした。本当にモンゴルの人は海外に出て行くことが多いようです。モンゴルの人口は360万、国連加盟国の中で人口密度が最も低い国だそうですが、海外在住者が500万いるのだとか、日本では考えられない数です。
めざすはテレルジ。ウランバートルから70kmくらいのところです。そこに二泊、前後でウランバートルに二泊する四泊五日の短い旅です。夫があまりあちこち回ると疲れるというので、滞在型のツアーにしました。
モンゴルは大草原であるというイメージはありました。たしかに日本のようにせせこましい平地ではなく、どこまでも広く、そこに牛や馬や羊たちが放牧されていてますが、その先には岩山があって、ヨーロッパのスイスやアルプスのような美しい景色が広がっています。
行きの飛行機の窓から見たモンゴル。草原と湖がたくさん、と思っていたら、夫が雲の影だよ、シベリア上空でも同じだ、と。確かに湖では多すぎますね。
避暑地なので、電信柱や車やたくさんのゲルなどがあって、それを切り取るとあまり広い感じの写真を載せることができないのですが、本当に広々していました。 全く畑というものはありません。私が貧乏性なのか日本人だからなのか、こんなに土地が余っていたら、耕して畑にしたらと思ってしまいました。土地がそういうものを受け付けないのか、国民性なのか、はたまた冬が寒いせいか。本当に野菜を作っているところなど皆無です。
7月に北海道のガーデンを八つめぐるツアーに参加しましたが、帯広は畑ばかりでした。最後に行った紫竹ガーデンを作ったおばあちゃんのことを、ガイドさんがとても詳しく話してくれました。ご主人を亡くして泣いてばかりいたら、娘さんに、お父さんはお母さんの笑っている顔が好きだったと言われ、花一杯のガーデンを作ろうと決心したのだそうです。その理由は、かつてたくさんあった美しい花々が、みんな畑になって無くなってしまっていたので、こども時代の花一杯の野原を取り戻そうと思ったのだとか。そう、日本人は効率を考えて何でも畑にしてしまうのです。モンゴルの南部にある内蒙古は、現在は中国領ですが、漢人が多いので殆ど畑になっているのだとか。やはり国民性なのでしょうかね)。さて、昭和2年生まれの紫竹さん、庭の手入れをし、あちこちに花の種を蒔き、花の中で死にたいと思っていて、本当にお花畑の中で、種を握りしめたまま亡くなったのだそうです。「花の下にて春死なむ」という西行の歌を思い出しますが、母と同じ年に生まれたと聞いてよけいに胸に迫るお話でした)。
テレルジに行く途中で寄ったチンギス・ハーン騎馬像のある丘に立ち寄ります。
英雄の像が坂を登った高いところにあるのは、ベルギーのワーテルローと同じ考え方です。ワーテルローはナポレオンではなくて、ライオン像でしたが。
(ワーテルローの丘。階段が急なので下から見ただけ。1992/8/22撮影)高さ12m、直径30mの円形の台座に立つ高さ40mの巨大なチンギス・ハーンの騎馬像。騎馬像としては世界最大のもの、『元朝秘史』には、この辺りでチンギス・ハーンが金の鞭を拾ったと書かれているので、金の鞭を持っています。
像の下の博物館にある世界一巨大なモンゴル式伝統ブーツ。牛の皮22頭分を縫い合わせて作ったとか。
途中で、遊牧民のゲルに立ち寄り、いろいろなチーズをご馳走になりました。手前の大きな器に入っているのは、「ボルソック」という揚げパン、塩味のミルクティー「スーティ・ツアイ」(茶色のお椀、三つある)に浸していただきます。
乳に小麦粉を少々加えて大きな鍋に入れ翌朝まで置き、できあがった膜のようなお菓子が「ウルム」(「ボルソック」の右にあります)、薄いクレープのようでクリームのような味がする上等品です。とても美味、お代わりしました。
最後に「アルヒ」という蒸留酒(モンゴルのお酒、実質的にはウォッカ)がでました。家畜乳を蒸留させた「シミーン・アルヒ」と呼ばれるもの、大量の乳を必要とするので、遊牧民しか飲めないものだったようですが、最近はスーパーでも売られているとか。アルコール度数は20度というので、二人で一杯だけご馳走になりました。 ゲルの外に出ると、娘さんたちが大きなお盆のようなものに、ウォッカを作る時に出る絞りかすに乳を加えたものを絞り出し、ゲルの屋根の上で天日干しています。これが「アーロール」(干しチーズ)、日本のお餅の天日干しみたいでした(上の写真中央の「ボルソック」の左と上にあるもの?)チーズ、お菓子、お酒、全ての乳を一滴も無駄にしないよう工夫された多岐にわたるレシピ、大変見事です。
早めに宿泊地について、休憩。今夜はゲルに泊まります。バス・トイレ付きなので助かります。韓国人旅行客が多く、団体用の大きなバスが駐車場に止まるのが見えました。同じ宿に泊まるようです(夜中、食堂で大声で話していて、うるさかった)。
ゲル周辺は、広い草原で、モンゴルの花々が咲き乱れていました。日本と似たものが多く、小さな花がたくさんありました。
キンロバイ
これは薄雪草(エーデルワイス)。たくさん咲いていました。形はあまりよくないのですが。
ネパールで、高い山にしかいないというヤク、ヤクがおいしそうにペロペロなめるので、人間が岩塩を発見したという話を聞いて以来、ずっと会いたかったヤクにとうとう会うことができました。牛や馬や羊や山羊は、草原にたくさんいるレギュラーメンバーなので、特に写真は撮りませんでしたが、ヤクの群れに出会ったのは嬉しくて何枚も撮りました。wikipediaに拠れば、モンゴルでは、ヒツジ1,168.6万頭、ヤギ1,223.8万頭、ウシ184.2万頭、ウマ200.5万頭、ラクダ25.7万頭を飼育し(2004年統計)、牧草地の広さは国土の約80パーセントである。畜産は、そのほとんどが遊牧で行われている。農業は、社会主義時代は土を掘ることを忌避する風習が改められ、食糧自給できたものの、市場経済化で穀物生産は落ち込み、現在は中国やロシアからの輸入が多い、とあります。
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コメント
時間的に思ったより近いのに驚きました。