62 うーさぎ、うさぎ

 うーさぎ、うさぎ


 今年は卯年、黙っていようかと思いましたが、12年後、ブログを続けているかどうかわかりませんので、元気なうちにカミングアウト、年女です。正確には同じ干支ではありませんけれど(十干十二支が組み合わされて、六十年に一度、生まれた時の干支が巡ってくるのです。今年は十干では癸、十二支では卯で、「癸卯」生まれの方が生まれた時に干支にもどる還暦となります)。

  そんなことで、たいしたものはありませんが、手元の兎グッズでも並べてみようか、などとお正月に思いつきましたが、東博の一月恒例の干支企画、「兎にも角にもうさぎ年」を見にいってからにしようなどと、 いつものようにぐずぐずとしておりましたら、1月18日から、日本経済新聞の裏面(「私の履歴書」や小説の連載が載る文化欄)で、いつも愛読している、美術品を十回で解説するシリーズに、今橋理子氏の「兎のかたち十選」の連載が始まりました。まねしたみたいに思われるのは残念なので、重い腰をあげて手元の兎グッズなどをもとに書いてみようと思います。


   母方の祖母の卒寿祝いの記念品。母は早逝しましたが、祖母は長生きで100歳を越えて生きました。リャドロの兎です(実は、これを茶箱の中から発掘するのが大変だったので、記事が遅くなったということもありますー二つ目の言い訳)。

  私の家族は、母方の祖母が卯、母が卯、父方の祖父が卯、父方の叔父が卯(つまり母と同じ年)、皆故人となりましたので、残っている卯年は、私と一番年長の孫になります。合わせると6人、兎(卯)一族だったというべきかもしれません。最近手にした山本幸司氏の『死者を巡る「思い」の歴史』(岩波書店)は、日本古典文学の和歌や文学作品から、人の死に対するさまざまな思いを抜き出し、それぞれの想念のあり様を探る魅力的な本ですが、「はじめに」の部分にとても素敵な文章があります。

 私自身の立場から見ると、自分を中心に、生きている人々と亡くなった人々が、いわば一つの交遊圏を作り上げているのであり、そうした交遊圏は、故人の部分は眼には見えないが、それなりにある種の共同体だといってもよい。多かれ少なかれ、この世の大方の人はそうした死者と生者の入り混じった共同体の一員だと考えられるように思う。

 自分を軸としてみれば、生者との交遊だけではなく、眼にはみえないけれど、亡くなった人との交遊もあり、それが一つの交遊圏をなしているというのは、この歳になってみるとたいへん魅力的な考え方に思われます。今回のテーマである卯と、わが一族という枠で絞ってみると、亡くなった方が多く、生者は少ないのですが、生死を超えた交遊圏を考えると一つのまとまった繋がりをみることができそうです。亡くなった人のことは、ずっと生きている者の心の中にありますから、向こうからの答えはないけれど、こちらはいつも思い出し、語りかけることができるのですから。

 次は友人で、私と生年月日が全く同じIさんから退院祝いに頂いた、波の上を走る兎(波兎)のコーヒーカップ。私が『源氏物語』の講座をしている匣(さや)さんのお店にあったものです。同じ年女だからという意味もあるかな。Iさん、ありがとう。

 波兎は、醍醐天皇の廷臣一行が琵琶湖の竹生島明神に参拝するため、翁と海女の乗る釣り舟に同乗を許され、島に向かう途上眺めた景色を歌った一節「緑樹影沈んで、魚木に登る気色あり。月海上に浮かんでは、兎も波を奔るか。面白の島の景色や」と歌った、謡曲「竹生島」の一節に因む意匠であるといわれ、見ていると心が浮き浮きする大好きな図柄です。

 日経の今橋さんの第一回目も波兎で、 東博にも展示されていた「波兎蒔絵旅箪笥」。

                      東博にて撮影(2023/1/14)

 今橋さんは、謡曲「竹生島」を引いて、「『波の上を走る兎』とは現実の光景を描写しているのではなく、『月の光』の光が湖面に揺らいでいるさまを文学的にたとえた表現なのである」という詩的な解釈をしています。確かに、謡曲「竹生島」の詞章はその通りの意味なのですが、この見事な譬喩が人々の想像力に強く訴えるものがあって、このデザインが誕生するというのは、なんともいえず素晴らしいことです。

 東博の波兎はポスターにもあって、波の上に丸い兎の図柄もあります。

        

上部中央の赤くて丸いのが兎です。着物の意匠としては素敵ですが、好みとしては、サーフィン兎型が好き、「波兎蒔絵旅箪笥」は、いかにも楽しそうにたくさんの兎が波の上を踊っていて音楽が聞こえてくるようです。

        こちらも東博にて撮影 →

                 (2023/1/14)

 やはり頂きものですが、先日Tさん(受講生の最長老。今年、上の兎の記念品をもらった時の祖母と同じ○寿になられました。女性の年齢は秘密なのにごめんなさい。Tさん不都合だったら消しますね。)からいただいたビーズ細工の兎、お正月の間に丹精こめた手仕事をなさって、毎年の干支を作り上げて下さるのです。いつも本当にありがとうございます。

  

   





 初詣の帰りに近所の和菓子屋さんで買った、兎の上生菓子。食べるのがもったいないくらいかわいかったのですが、なかなか美味でした。




 最後は出雲大社御本殿裏の兎。因幡の白兎に因んで、出雲大社にはたくさんの兎たち(合計六十六羽)がいるのだそうです。(2018/4/9撮影)





 ということで兎尽くしでした。

 本年もどうぞよろしくお願いします。

              目次へ


******************

関連記事

 67   兎に角うさぎ 

*******************

           

コメント

御輿 さんの投稿…
卯年のお話、とても微笑ましくて、すぐに反応したかったのに遅くなってしまいました。
私の古典の最初の恩師はお二人とも昭和二年の丁卯のお生まれでした。60年後の同じ干支は我が娘です。私の家系には、卯年は少なく、この娘も二月の節分の生まれなので、どちらかというと前年の丙寅の要素が強いようで、虎の威を借る(笑)タイプかも?私の母が大正最後の乙丑で、全く同じ干支の初孫(私の長男)を溺愛したのも、うなずけます。干支は便利で面白いですよね。
今回のブログの最初のウサギの置物の写真が、何と品が良くて素敵!、と見とれたのですが、さすがリャドロでしたか!茶箱とは勿体ないです。ぜひ常設展示なさってください。
卯年の方はウサギの意匠には敏感になられるでしょうね。私など、思わずうさぎやのどら焼きとか連想してしまいました。すみません。上生菓子、美味しそうでした。
今年は干支にも因んで、今までの3年間の分も合わせて新しい飛躍の年になりますようにお祈りしております。
M.Nakano さんの投稿…
御輿さん、いつも有り難うございます。

 丁卯は、母の生年で、御輿さんの母上の乙丑は、私の父の干支、初孫さんが母上さまと同じ干支というのも私と同じです。長男夫婦は忙しいので、こちらが溺愛するほどの時間はとれませんが、ほめていただいたリヤドロの兎、私の弟がいらないというので、こちらでひきとり、卯年の孫に記念としてあげました。お揃い、ということになりましょうか。いろいろ不思議なご縁ですね。

 東博の兎展について、続けて書く予定だったのですが、鷽替えのお話になってしまっています。もう一つ鷽替えのことを書いたら(それでも一週間以上遅れになりますが)、兎の続きを書きます。

人気の投稿